登山は2009年に始めました。以降、季節を問わず山行を重ね、大山、蒜山など中四国の山域だけでなく、北アルプス、立山、剣岳などで山行を重ねています。
登山医学会認定山岳医を取得以降、山岳でのファーストエイド、治療、救助に取り組んでおります。もともとスキー場では、イントラ活動と並行して、SAJ公認ドクターパトロールとして、活動はしてきましたが、登山を始めて、山岳現場では、スキー場パトロール活動とはまったく異なる注意点があることに気づきました。それは、ゲレンデと違い、トラブルやケガ、体調不良は、即遭難につながるというところです。
山岳をスポーツとしてとらえた場合、他のスポーツと決定的に異なるのが、時として死を伴う危険が、すぐ隣合わせにある、ということです。加えて、国内愛好家の平均年齢が50歳代後半であるということで、ケガだけでなく、持病の悪化、高山病など、内科的なことも重要になるということでしょう。
山岳は、ある意味サバイバルです。入山したら、登頂して(しなくてもいいですが)、無事に下山するまで、すべて自己責任です。ですので、自己の体調管理、装備、計画、すべてにおいて、周到な準備が求められると思います。近辺の低山であっても、パトロールを呼べばスノーモービルで運んでもらえるフィールドではないということです。
では、登山者は、何に気をつければいいのでしょうか?
■己の体を知り、自己管理、トレーニングをすること。
登山愛好家の年齢層は、50歳台あたりが最多です。70~80歳台の方でもお元気に山行されています。私もですが、決して若くはありません。
登山は基本的にハードなスポーツですし、一般の人が思っているより、低酸素、低気圧、低温の世界です。平地での運動とは、心臓、肺、筋肉に対する負担がまったく異なります。まずは、ご自分の持病管理、体調管理、をまずきちんとしましょう。
登山でトレーニングするならば、ひと月に高低差で2000mをクリアすることを目安に山行しましょう。
中年以降の統計では、男性は心臓発作による突然死、女性は、転倒による骨折→遭難、が多いので、注意が必要です。高血圧、心臓病、糖尿病、高脂血症、などはきちんと加療することはもちろんですが、山行にあたっての注意点、どの程度の負荷をかけていいのか、を、主治医と相談されるのがいいでしょう。
また、変形性膝関節症、骨粗しょう症、などの整形的な疾患がある場合も、主治医とご相談ください。若返ることはできませんが、自分の体(の弱点)を知ることはとても大切です。
■己の登山技術を知り、計画を立てること。
登山スタイルは様々です。季節によっても、山域によっても異なります。
自分のスタイルをよく把握し、登りたい山と、登れる山が一致するのかどうか、冷静に分析しましょう。無理があるようなら、計画変更するか、よりトレーニングをするか、を考えましょう。なんとかなるさ、では、遭難につながってしまいます。
天候チェックはもちろんのこと、少なくとも、行こうとする登山道を標準コースタイムの120%以内で、かつ、転倒せずに歩きとおせるか、を考えてください。
山行時は必ず、誰かに、どこのどの山に行くのか、を告げておきましょう。万一遭難した場合、どこを探せばいいのかわからないのが一番困ります。
■装備を知り、使いこなすこと。
遭難事例の一番は、道迷い、です。その次に、転倒、転落、体調不良、となります。
道に迷った結果、焦って、転倒したり、行動不能に陥って、低体温になる、というパターンが多いです。紙の地図やコンパスを使いこなせることは大切ですが、それができない人も多いでしょうし、そもそも迷うということは、現在地がわからないことが多い。ぜひ、スマホの地図、GPSは持っていき、使いこなしましょう。予備電池は多めに。どちらもできない、という人は、そもそも、山に入るべきではないと思います。
山に入ったら、五感を研ぎ澄ませましょう。まずは視覚からの情報、山全体、空の感じ、雲の流れ、次に足元を見ます。空気・気温・風・におい・足元から感じる圧など、常に感じて行動しましょう。そうすることで、何か違うな、変だな、ということに早めに気づけるようになります。それが、道迷いや転倒・転落をしない大切なポイントだと思います。
自分の持っているレイン・防寒着などは、どのような時に着るのか、脱ぐのか。帽子は?手袋は?脱いだらどこにしまうのか。水分はどの程度?行動食はいつ、どれくらいとるのか?も常に考えましょう。ヘッドランプは持っていても、電池チェックは?
ツエルトは広げてみたことがありますか?いざ、張る時に、ペグ・細引きなどはあるか?山へ入る以上、たとえ里山であっても、大切なことです。装備は持っていても、使いこなせてこそです。